呆れた議員達の行状

地方議会の実態から日本を見る

風力発電と蠢く町政(5)

     地方創成と地域おこし協力隊


地域おこし協力隊と言う制度をご存知だろうか。総務省所管の事業で、財源は特別交付税、一人当たり年間450万円である。任期は1年ごとの更新、上限で3年間、採用された自治体の嘱託職員という身分である。勤務は月に16日、報酬額は月額166000万円であるが、住居は自治体借り上げ、勤務日以外は、副業もできる。卒業時には起業支援金100万円の交付もある。応募要件は、首都圏及び大都市圏在住者で、年齢は50歳まで。ただし、一定期間郷里を離れていたUターン希望者も応募できる。ところで協力隊の定着率は、現況で54%。これだけでも費用対効果が疑わしいが、おまけに役所で何をしているかと言えば、イベント手伝いや事務補助業務で、どう見ても協力隊自身のキャリア形成にはつながりそうもない感触である(ここは、あくまで四万十町の事情である)。彼らからは、都会の過酷な労働環境に疲弊して、地方の役場に3年間緊急避難してきたような印象さえ,少なからず受ける。まず彼らは、役所が設定する「ミッション」と呼ばれる業務に応募してくる。書類選考と面接で採用が、決定される。このミッションという呼び名からして、十二分に気恥ずかしいが、中身の大半は、漠然とした地域振興、活性化である。私は過去に、集落維持が目的の集落活動センターへの支援員や、専門職が皆無の町立図書館や美術家の学芸員をミッションとして提案してみたが、実現した試しはない。特別交付税450万円の使途として、ないものを補充すればよりましではないか、という単純明快な発想でもあり、地域振興、活性化という空虚さにする批判でもあった。この協力隊制度の主旨は、地方への移住定住である。「首都圏から若者人口を地方に誘導し、地方の集落維持や活性化を図り、地方を存続さす。」という大儀名分がある。結局これも、「地方創成」の一環である。その意味では、巨大風力発電設備は、地方の魅力(田舎であり、開発行為から免れ、それゆえ豊かな自然が残っている)を半減させるので、

〇Iターーン、Uターンの人達は来なくなり集落維持・存続の危機に陥ること

という指摘は、正鵠を得ている。けれども、理念踊れど現実は踊らず、である。協力隊の多くは、町の外郭団体や補助交付事業者に就職するのが、積の山であるし、補助金の切れ目が雇用の切れ目に往々にしてなっている。ある一人の協力隊の足取りを追ってみよう。この協力隊員は、補助交付事業者に就職した。ふるさと納税関連事業事業で、平たく言えば、官製インターネット通販事業の下請け業務に従事していた。卒業時にあぐり窪川の採用の内定も受けていたが、本人の意向で、地元民間事業者に就職した。数年後、そこを止めて一地元の首都圏に帰った。移住定住をあきらめたのかと、想像していた。無理もない。町の事業を取っている地元事業者達は、あの有名な四万十ドラマをはじめ、対外的な顔と対内的な顔を巧妙に使い分ける、名うての田舎起業家連中なのである。四万十ドラマの社長にいたっては、経済産業省主催の講演会の講師を依頼されたり、総務省の地域振興アドバイザーにも名を連ねている。もはや全国版有名人である。この有名人四万十ドラマの社長畔地履正氏は、最近、彼が代表を務める、NPO法人RIVER( 無論四万十川を指す)を通じて、著名人に川について語ってもらった、オムニバス形式の本を出版した。ライター名を見て驚いた。あの養老孟司南伸坊安藤桃子をはじめ、そうそうたる顔ぶれ、総勢32名である。町職員や県職員の人脈の及ぶ所ではない。原稿料は、四万十川の天然鮎とある。この本の価格は2200円である。相変わらずのあざとさである。若者が仕事がないので、流出するのである。そんな田舎で急成長が可能なのは、補助金ビジネスだけである。議員時代に補助事業全般を精査した。四万十ドラマは傑出して、補助件数と金額が大きかった。四万十町高知県経済産業省農林水産省及びその外郭団体と事業の所管が多岐に渡っているので、精査は並大抵ではなかった。到底、全貌を精査出来てはいないが、直近では、農林中金が出資する農林未来基金から1億円の交付金を得た事実は把握している。畦地氏は補助金ビジネスのプロであり、同時に東京の文化人の活用にも長けている。マスコミやSNSを通じた露出によって商機を見出すことに成功しているという意味では、時流に乗る、畦地氏の実力を認めざるをえない。が、補助金の適正な執行のあり方は、又別の話なので、それは別の機会に再び書きたい。協力隊に話を戻す。その協力隊は、首都圏帰還後、四万十町東京事務所に再就職した。高知県尾崎知事の産業振興、地産外商に右に倣えで、四万十町も東京事務所を開設、HPもリニューアルした。平成30年度の事である。このHPリニューアル事業の事業名は「シテイプロモーション事業」である。この命名も相当に気恥ずかしい。結局、東京コンプレックスが根強く、東京経由の目新しいコンセプトに対して、無抵抗になるのだ。この辺は殖民地根性のような有様だ。実に苦々しい思いがする。とにかく東京に弱い。東京事務所の業務は、フリーペーパー発行やSNS 上の発信を通じた、四万十町応援店(町産食材を扱う首都圏の飲食店)の開拓と聞いて、早速SNS上の投稿文を検索した。その中で、「仁井田米超上手い。四万十町に行きたくなりました。」と言うキャプションや、中尾博町長が開所式で、「ぱど」」社員の若い女性達に囲まれて脂下がっているがっているインスタグラム投稿を見て、唖然とした。「ぱど」さん、まずは、社員に国語教育を施すべきじゃないのか。それに中尾町長の風情の醜悪さ、慄然とした。そもそも我々の税がこのような、泡のような業務に費やされていいのか。それはそうと、この協力隊の足取りから、再確認できたことは、やはり、過疎地で跋扈するのは補助金ビジネスであり、その補助金ビジネスを通じて、過疎地に中央から降りてきた補助金は、着実に中央に還流しているという事である。以下を見てもらいたい。これは直近の数字であり、単年度の委託料である。

高知県中山間地域対策課、地域人材確保連携事業委託料、2,928,000円、委託先:株式会社ぱど

令和元年度事業、継続は未定、県外で地域おこし協力隊をセミナー開催を通じて募集

又県内では、集落支援員(地域の課題の把握と課題解決)を募集する事業

移住定促進・人材確保センター.首都圏コミュニテイ活性化事業委託料、8,532,000円、委託先:株式会社ぱど

令和元年度事業、事業継続は未定、首都圏で高知県出身者のコミュニテイを構築し、Uターンに繋げる。具体的にはHPの作成

四万十町賑わい創出課、移住定住促進プロモーション事業委託料8,140,000円、委託先:株式会社ぱど

平成30年度事業開始、令和2年度事業終了、四万十町応援店の開拓、東京での商談会開催の委託、四万十出身者のコミュニテイ構築

おまけに「ぱど」は、自社の社員を四万十町賑わい創出課に1名出向させている。この出向者に対して、四万十町は、あぐり窪川JAlに営業部長の給与を振り込んでいるように、ぱどに給与を振り込んでいることだろう。

以上の事業は、全て公募型プロポーザルという方式で、受託者を決定している。審査に当たるのは、通常公務員である。又、応募者は全て東京に本社がある企業である。県内企業を排除している訳ではない。結果が偶々そうなった(移住定促進・人材確保センター職員)。

元協力隊は、東京、高知県を往来しつつ、「首都圏コミュニテイ活性化事業」(高知県出身者のコミュニテイを首都圏で構築するためのHPの作成)に従事しているらしい。首都圏に在住する高知県出身者にとってそのHP経由で得られる情報が、Uターンのきっかけになるのだろうか、疑わしい。そこには、加工食品さながらの過剰な加工が施されるはずである。目的のある情報とはもともとそうしたものである。一説によれば、ネット空間には、エコチェインバ―効果というものが存在し、同じ意見の者同士のSNS上のコミュニテイは炎上し易く、議論が先鋭化する傾向にあるという事である。補助事業を巡る、役所間、相互参照的エコチェインバ―効果が感知される。利害が一致している関係機関(内閣府高知県、市町村、補助事業の受託者)、社会通念的な表現では、「お世話になっている間同志」に対外的な振興策や活性化策が抜本的に可能なのか。受託者の委託者に対する安易な迎合がないか。「仁井田米超上手い、四万十町に行きたくなりました。」あるいは「元四万十町協力隊の採用」等、事業の精査が必要である。

追記:私が、今まで協力隊から得た、最も有益な情報は,ある一人の女性隊員の言葉だった。埼玉から来たその女性隊員は、私に、こう言った。

「この町に来て初めて、野菜に旬があるという事を知りました。」

又別の協力隊時代はのリーダー格であった男性隊員は、プレゼンの場で、地域住民である聴衆に向かってこう言った。

「オーストラリア産とかアメリカ産ではなく、地元産の肉がごく普通にスーパで買えることの豊かさを痛感した。」

対面で、肉声を伴って聞いた言葉は、聞く側に伝える力を持っている。尤も、この町の食の豊かさを発見して、地元民に伝えてくれたこの協力隊員、結局地本人の地元に帰って、地元役場に再就職しました、というのが、今回のオチである。理由は明瞭だった。町のオートキャンプ場を運営する指定管理者である事業者に就職はしたものの、給与面で不満と不安があったようだ。その隊員には、妻と幼い子どもがいた。昇給や退職金が期待でき、将来やお、老後の生活設計が可能なのは、この国では目下、役所と大企業だけだということは、公然の事実である。やはり、根底にある問題は、移住、定住より、前にある、大枠の、「経済の低成長、人口の高齢化という条件下での、税制のあり方を通じた税の再配分のあり方が、若者や子育世代の将来設計が成り立ちにくい状態を作り出している。」という事に帰着するのではないか、と思う。つまり、政策の問題ではなく、政治の問題だという事である。その意味では、本質的な問題から目をそらし続けたまま、協力隊制度を創設し、原資に「特別交付税」を充当した、政権中枢の無策の罪は重い。

交付税地方譲与税特別会計によれば、歳出の4割以上が、国際整理特別会計への繰り入れとなっている。財政赤字国債の発行で埋め合わされていることも公然の事実である。国債の発行とは将来世代への債務を意味する。

 

四万十町議会議員  西原真衣