呆れた議員達の行状

地方議会の実態から日本を見る

風力発電と蠢く町政(28)

    ヤイロチョウは風力の抑止力になるか

今日から四万十町議会12月定例会が開催される。今回は、「ヤイロチョウのさえずるまちづくり条例の制定を求める請願」が、武田秀義議、中屋康議員、村井真菜議員を紹介議員として提出されている。提出者は生態系トラスト協会、観光協会、朝霧森林倶楽部、四万十大正まちづくり株式会社の連名である。フェイスブックの投稿記事には、池田十三夫環境協会会長、市川俊英四万十大正まちづくり株式会社代表、中村滝男生態系トラスト協代表が町長室で、陳情を手渡している写真が写っている。この件で、私には判然としないことが、2点あった。1点目は、この陳情文が、呼びかけ人である生態系トラスト協会のHPに掲載されていなかったことである。ヤイロチョウのさえずるまちづくり条例の制定を本気でアピールしていれば、まずは自社のHPに掲載するのではないか、という素朴な疑問である。陳情文を読もうと考えて、生態系トラスト協会に問い合わせたら、中村代表が、それでは、これからフェイクブックに出しましょう、という事で、内容が、初めて分かったのである。中村代表は、「大正町時代からの案件で」、とか「大正、窪川、十和出身の各議員に紹介議員になってもらった」とか、妙に中立を誇示する言い分で、「大藤風力発電事業計画に対する抑止力にするしたいという目論見があるのですか」と直截に聞けば、「それは、そうです。」と応答するので、結局、なんだか、この際、各団体の自然保護スタンスを表明して団体のアピールに繋げ、町からの補助金等の拡充が眼目である可能性ありと、率直に言えば、ある種の「便乗」を感じた次第である。因みに、連名で町と議会に対して、陳情、請願を提出したこれらの団体は、四万十町からの例年の運営助成金受取額が以下の金額である。(令和元年当初予算書ベース)

生態系トラスト協会:350万円

観光協会:1664万円

四万十大正まちづくり株式会社:500万円

朝霧森林倶楽部:御成婚の森管理委託料76万円

注)朝霧森林倶楽部は間伐作業を主体としたボランテイアグループであり、生態系トラスト協会と観光協会は、町が運営管理費用を恒常的に補助している町の関連団体である。四万十大正まちづくり株式会社はオートキャンプ場ウエル花夢の指定管理者に町が指定した団体である。11月15日に開催された四万十町議会全員協議会の場で、武田秀義議員が,ヤイロチョ生態の町独自調査を求める意見を出した。又岩井議員が、「生態系トラスト協会に調査を委託する意向があるのか。」と発言している。中尾町長は、「生態系トラスト協会の中村代表とは意見交換した。独自調査は生態系トラスト協会に委託する。」と応答している。生態系トラスト協会はSNS上で、村井真菜議員を講師に風力発電について勉強会をしたとも、発信している。この辺りは、武田議員、村井議員、岩井議員の政治活動と、生態系トラスト協会の事業拡大は、互いにウインウインのコラボレーション作業ともなり得ることは見逃せない。

 ウインウインのコラボレーションと言えば、12月定例会には、「四万十ふるさとの自然を守る会」から9月定例会に提出され、継続審議となっていた「大藤風力発電事業計画の中止とヤイロチョウ保護条例の制定を求める請願」の取下げと同時に同団体による「オリックス株式会社による大藤風力発電事業計画の不許可及び町有地を提供しないよう求める請願書」が新規に提出されていた。受理年月日が11月18日であり、この日付は、町長への「ヤイロチョウのさえずるまちづくり条例の制定を求める」陳情提出日と同日であった(生態系協会フェイスブック投稿による)。という事は、ヤイロチョウを巡り、「四万十ふるさとの自然を守る会」と生態系トラスト協会の呼びかけに応じた各団体が協働、連携して動いているという事を示唆している。ここにもコラボレーションが成立している。それぞれの思惑はあれ、この町で四万十川を含む四万十の原風景はは、希少な次世代に引き継ぐべき資源であることには、異論はないと思う。絶滅危惧種ヤイロチョウ保護区がある四万十町が、「飛行ルートにはかかるが保護区外」(四万十川対策室弁)とかの判断で、ヤイロチョウの生息領域に、巨大な発電施設を持ち込むこと自体が、想像を絶する蛮行であると、私自身は強く思う。風車の騒音や低周波音の被害が人間で世界的に報告されていながら(疫学的には実証されている、風車から離れたら症状が消失している。医学的因果関係が立証れていないだけであり、オリックス社は、最初の住民説明会説会で、「医学的因果関係が立証されたら保障する。」と発言していることは、記憶すべきである。)小さな絶滅危惧種の身体及び生息環境に多大な影響がないはずがないではないか。ヤイロチョウ保護区の近傍で風力発電事業を実施すること自体が蛮行ではないだろうか。これは一過性のオリッス発注事業がもたらす経済的恩恵と中尾町長によって臆面もなく称されているものや、固定資産税の僅かばかりの増収で、取って変えられるものではないのである。固定資産税の僅かばかりの増収について若干調べてみた。四万十町税務課松田課長によれば、全基が四万十町側に立つと仮定して、初年度で46000万円相当、工作物は償却資産であり耐用年数法定17年間であり、減価償却後、10年目の固定資産税13000万円まで落ちる。更に地方交付税交付額が、税収の増加分の25%減額されるので、実質四万十町の歳入増加額は初年度34500万円、10年目には、9750万円となる。今ふるさと納税額の見積もりが、令和元年当初予算ベースで10億円であるので、四万十の豊かな自然の恵みを受けた特産品ブランドで寄付額を増やす方が、賢い戦略ではないか。「四万十川の原風景」という差別性、希少性を手放すのは町の営業戦略上は、明らかな愚策である。「四万十川の原風景」に風車49基は似合わない。おまけに、森林組合を含めた土建業や関連産業(生コンクリート業)の経済的恩恵とやらは、防災絡みの国土強靭化事業や今年から始まった森林譲渡税を財源とした今後の事業展開で、十二分に賄えるのではないか。基本的に、大藤風力発電推進は、四万十町の他の施策(観光や地産外商、四万十川保全活用)と全く整合性がないことが、これこそ実に町民に対して示しがつかない話である。

 この四万十川保全活用施策との整合性が、実は2点目の疑念である。この大藤風力発電事業は土地形状の大規模な変更を伴う開発事業であり、環境影響評価法上の手続を踏まなければならない。開発事業者が作成する「配慮書」「方法書」「準偽書」「評価書」の各段階で、環境大臣と知事が意見を述べることができる、となっている。そして知事は、意見を述べる前に、意見公募で提出された住民意見に配慮し、関係市町村の長の意見を考慮するものとする、と規定されているのである。知事意見は最終的に、高知県環境影響評価技術審査会への諮問,答申を経て、公式に表明される。この度やっと、方法書を審議した高知県環境影響評価技術審査会議事録と配布資料が高知県環境共生課のHPで公開された。会議の開催日時は9月7日である。議事録の作成に3月かかる。これを全て印刷して読んで、私は非常に腹立ちを覚えた。まず、四万十町議会12月定例会向に準備していた、総務常任委員会公聴会を開いてオリックス社の担当者に公述させるよう仕向ける請願書の中に提示した質問事項の幾つかが、高知県担当課によるヒアリングへの事業者回答とういう形式で既に資料作成、公表されていたからである。こちらの判断材料がそろわなければ、こちらの準備に差し障るのである。審議会議事録とは、行政の意志形成過程の実録である。実録の作成、発表に3ケ月のタイムラグがあってはいけない。意思形成過程が3月後に判明したら、その利用価値は、激減する。全て後の祭りとなるのである。これでは税金がひたすら無駄に費消されるばかりである。審議会議事録の作成、発表が遅すぎる。これは、行政側からすれば、審議会が形骸化していることの原因でもあり結果でもあるので、正しく行政の自己責任なのである。今の安倍政権が、大学入試の共通テストへの英語の民間試験の導入を巡って、内閣府文部科学省内に設定された私的、公的な審議会やワーキンググループの議事録の作成と公表とそのタイミングが、どれほど需要な意味を持つかは、結果的に翻弄され、困惑しせざるを得なかった生徒、保護者、教員を含む高校関係者等の当事者に多大に被害をもたらしたしたことでも明らかである。荻生田文部科学大臣のいわゆる「身の丈」発言でやっと明るみに出た、審議会やワーキンググループのメンバーと事業の受注既定者との利益相反関係(例えは数億円の委託事業の受注者であるベネッセはワーキンググループへのアドバイザリ―業務をこの時すでに請け負っていた。)は、審議会やその下の作業部部会であるワーキンググループの議事録の迅速な作成と公開が徹底していれば起こり得なかったのではないか。行政の意志決定過程の透明性は、本来、民主市議国家の骨子であるが、行政本体がそれを理解していない。行政とは、律令の時代から自己完結しているのが日本の伝統であり、日本の大多数の国民の社会通念でもある。政治は、従順、謙虚にお任せなのである。我々は、暗に「身の程を知れ」と非常に受動化され、統べられてきたのであり、荻生田氏自身はおそらく、政権中枢が利権の配分中枢であることに本質的な疑義など持ったことなど皆無の、安倍一強に身を寄せ、それによって政治家としての自身の「身の丈」を増強することに成功した政治家の筆頭なのである。であるからこそ、彼の「身の丈」発言は本音である。自分が登り詰めた階段(階級?)と彼が思っているものの上から下々を見下ろしているのである。本題から逸れた。環境影響評価技術審査会議事録に戻る。

 環境影響評価技術審査会配布資料の一つに、「(仮称)大藤風力発電事業に関わる環境影響評価方法書に対する事前意見への事業者見解」なるものがある。これに、高知県漁業管理課からの意見とそれに対する事業者見解が記されている。又同じ紙面で、四万十町四万十市からの意見とそれに対する事業者見解が記されている。この紙面は、高知県HP(環境共生課・環境アセスメント)で公開されている。ここに転載する。

 

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漁業管理課は、

1.「資産資源保護法に基づき高知県内水面漁業調整規則によって、「水産物に有害なものを遺棄し、又は漏洩してはならない。」と規定されていますので、開発に係る排水については十分な管理を行って下さい。(方法書p17, 52, 66)

2.開発予定区域付近については、四万十川漁業協同組合連合会四万十川水系の第5種共同漁業権を有しておりますので、当該漁業協同組合に事前に周知するとともに、漁業権漁業に影響を与える可能性がある場合は、協議を行って下さい。(要約書p104,192)

根拠法令等

水産資源保護法第4条第2項第4号

高知県内水面漁業調整規則第24条第1項

と事前意見を述べている。これに対する事業者見解は、

1.拝承致しました。開発に係る排水につきましては、十分な管理を行います。

2.拝承致しました.。進捗状況に応じ、協議をさせていただきます。また、四万十川漁業協同組合連合会/代表理事 堀岡様、四万十川東部漁業協同組合/代表理事組合長 平野様、四万十川下流漁業協同組合/代表理事組合長沖様ご面談済みにて、ご面談時に本事業推進に対する積極的なご了解をいただいております。

となっている。四万十町議会9月定例会でも、岩井議員、村井議員から土砂の流入による四万十川の鮎資源への壊滅的な影響への懸念について質疑があったはずである。四万十川対策室を置く企画課山本課長からは、上記漁協の「積極的な推進姿勢」は、全く答弁されていない。第一議員の一人、橋本章央議員は、四万十川東部漁業協同組合の理事の一人であり、ヤイロチョウのさえずる町づくり条例の制定を求める陳情を町長に提出した一人でもある池田十三生氏は、観光協会の会長として陳情提出者に名前を連ねてはいたが、四万十川上流淡水漁協の組合長でもある。そして四万十川上流淡水漁協は四万十川漁業協同組合連合会に加入していない。四万十川には,上流、東部、下流の3つの漁協があり、いずれも主として養殖鮎の稚魚の放流によって、鑑札発行収入を得ている。西日本科学技術研究所に3年間に渡って調査、研究を委託した、「四万十川保全と活用に関する調査」事業には3年間で、3000万円相当の公費が使われた。事業目的は、「天然種を含めた水産資源の回復と流域の歴史、風物がもたらした文化的景観を視座にした四万十川の活用」であったはずだ。鮎の生息調査の結果、天然鮎は、中流下流はごく僅か生息.家地側堰堤から上流には一匹も見つからなかった。私は、議員の時に議会図書室で、「四万十川保全と活用に関する調査」報告書3冊を読んだ。それで、四万十川水系の3つの漁協が、落ち鮎漁や火ぶり漁での禁漁期間規制を巡って、合意形成が非常に困難を極めているという事を知ったのである。天然種復活の最大の支障は、それである。更に事前意見を述べた高知県漁業管理課に問い合わせた所、漁業権の設定されている水産資源(鮎とウナギ)への排水(河川汚濁)による影響は、風力発電立地予定地から離れた上流にはないと判断している、という事である。それで、池田氏としては、目下影響がないから、上流淡水漁協組合長としてではなく、観光協会会長としてヤイロチョウ側に立っているという事なのか、それに鮎は、元々川を遡上する魚類である。なのに、今まで町の天然鮎の復活調査研究事業に協力してきながら、なぜ四万十川上流淡水漁協が四万十川漁業協同組合連合会に加入していないのか等を直に、四万十川上流淡水漁協組合長と観光協会会長を兼任し、又同時に元四万十町職員であり、現在選挙管理委員会会長でもある、町の顔役、池田十三生氏から直に聞きたいと、上流淡水漁協に申し出て、名前と連絡先を告げたが、まだ私に池田氏から連絡はない。それにしても、私にとって、やはり気になるのは議会である。オリックス社と事前協議が調っていることを、まずは知らないはずがない四万十川東部漁業協同組合の理事の一人であり現職議員である橋本章央議員は、オリックス社が代表理事組合長と面談し積極的に推進の意志を伝えた旨を、なぜ議会でオープンにしないのだろうか。今まで随分と「四万十川保全と活用について」繰り返し、熱心に議会で一般質問してきたではないか。あの熱心さは、一体何だったのかと、直に橋本章央議員に聞きたい所である。

 

四万十町議会議員  西原真衣