呆れた議員達の行状

地方議会の実態から日本を見る

風力発電と蠢く町政(125)

  

      「判決は棄却」だが「監査請求却下は不適法」

  住民監査請求を経た住民訴訟の判決が出た。原告(四万十町民)の訴えは棄却(退けられた)された。被告(四万十町長中井博憲)の言い分が認められ勝訴した。私はこの結果が意外でもなく特に憤慨も覚えなかったが、ただその呆気なさに、何だか力が抜けた。この裁判が何を求めた裁判かを言えば、平成31年12月定例会で議員報酬引上げ議案が試行部から提出され、可決されたことを受け、「議会基本条例23条1項の潜脱として、手続きに瑕疵の有る議案提出、議決に基づく違法な公金の支出の差し止めを求める」裁判であった。が、分かりにくいだろうから、一般的な表現に変換すれば、「議員が自分たちの報酬を自分達で裏工作して町長に要望書を出し、町長提案という形で議案上程させ、自分達で申し合わせ通り可決した。」ということが、町民を裏切る行為で実にけしからんから、この引き上げ分を町に返還させることを中尾博憲に求めた裁判だった、ということである。残念ながら、結果的に高知地裁は議会基本条例1項の潜脱を認めなかった。「条例制定手続を定めた法律も規則もない」と判決文には書かれていた。従って議員報酬改正条例は適法に定められているので、「条例に基づいて支給された議員報酬も違法な公金の支出には当たらない」という理屈である。であればもっと早く結審していたってよさそうなものではないか、というのが、判決に接した時の私の真っ先の感想であった。あの議決を見た町民は直感で真実を見抜いていたと思う。「議員が自分たちの給料を自分達で勝手に上げた。」という直観による解釈である。この直感は、当たっている。平成25年に実施した町民アンケートで議員定数は減らすべき、議員報酬現状維持若しくは下げるべき」というのが、町民の多数意思であったのだから、それを突き付けられた議員達は、「町民の目を盗んで裏工作して報酬を上げるしかなかった」のであり、逆に言えば、そこまでして「報酬を上げたかった」のである。定数と報酬という既得権益(と彼らが認識している)をトレードオフにして(トレードオフの根拠もない)、定数で譲った権益を報酬で取り戻す裏工作をやった、というのが実情である。議会運営委員の場でこの裏工作は進められた。定数削減後に報酬を上げた議会の視察にも議会運営委員会で行った。視察先三か所は全て執行部にお願いして執行部提案で報酬引き上げ議案を上程してもらっていた。視察目的は、露骨なまでに明らかである。その手口を学びに行ったのである。当然の事ながら、その視察経費は全額公費である。

 今回の裁判で被告側訴訟代理人は町の顧問弁護士である行田博文弁護士であったが、弁護士報酬として町は総額60万円を支払う用意であるという(手付30万円、成功報酬30万円、四万十町総務課による)当時の議会の報酬を引き上げてくれという要望を快諾し、町民から訴訟が起これば町顧問弁護士に、60万円を公費から追加支出した愚劣な町長中尾博憲は、案の状、令和3年度12月定例会で、「町の言い分が認められて勝訴した」とは行政報告したが、地方自治法上、住民訴訟の提起前に必ず前置すべき住民監査請求の請求結果が却下であったことは不適法である」という判決内容には一切触れなかった。四万十町監査委員会は、住民監査請求が起こされた時、田辺幹夫監査委員、堀本伸一議会選出監査委員という構成であった。堀本伸一委員は改選後とは言え、当時の議会運営委員会委員長の立場で、当時の議会議長酒井祥成と共に「議員報酬引き上げの要望書」を町長中尾博憲に提出した本人であるから、「利益相反」と言えば限りなく利益相反的な立場の監査委員だった。つまり堀本伸一委員においては、事実関係として「自分の行為の当否を自分が監査したのである。」公文書を改竄した財務省が内部調査をした森友学園と同一の構図と言える。やはり上が腐れば下も腐るのか。まず裁判所が「不適法」と判事した、監査委員会が請求人に通知した「住民監査請求却下通知文」を見てもらいたい。

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却下」とは、要件不適合により受理しない、監査対象としないという意味である。「棄却」とは「監査の理由がない」ので、請求の趣旨を認めないということである。監査委員会の出した結論は、「却下」であり、その「却下」「不適法」とされたのだ。つまり監査請求は適法で監査の対象となったという事である。却下通知によれば、却下理由が2項目列挙されている。

1.条例の当否は監査の権限外である

2.特定の財務行為が適示されていない

1は、条例は、執行部提案によるもので議会で議決された。監査権限は議決の正当性の判断には及ばない。従って有効であり、監査権限外にあるという理屈である。

2は、特定の財務行為が示されていない。従って監査不能であるという理屈のようである。この理由2に裁判所の物言いがついたのだ。財務行為は議員報酬引き上げ議案の可決によってその後に支出された財務行為である。財務行為は明確に特定化されておりその発生も十二分に予測可能であると書かれていた。1の「条例の当否は監査の権限外」は判決文は言及していない、訴訟の争点部分で「条例制定の手続きの正当性を担保する法律も規則もない故に、条例制定の手続は違法とまでは言えない(判決文)」と制定された議員報酬改正条令自体の違法性は明確に否定されている。裁判所の判決を総括すれば、「住民監査請求却下は不適法、改正された議員報酬改正条例には違法性はないが、財務行為は特定されており監査対象となる」である。とすれば監査委員は、議決を経て改正された条例通りに支給された財務行為の不当性や不法を、条例の正当性に係る他の条例の解釈に照らし合わせて監査できると含意していると推測できないだろか。判決は、一般論として「条例改正の手続きを定めた法律、規則はない」と判事しているが、議員報酬の改正の手続について規定した議会基本条例23条がある。一般論としてなくても議員報酬改正には、ある。議員報酬は、地方自治法上、

第203条 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。
普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。
普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる。
④ 議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない

四万十町議会基本条例

(議員報酬)

第23条 議員報酬は、そのあり方を含め、その額が議員の職務及び職責に見合うよう適時に見直しするため、特別職報酬等審議会条例(平成18年四万十町条例第36号)に定める審議会の意見を参考にするものとする。

2 議員又は委員会が議員報酬の条例改正を提案する場合は、専門的知見並びに参考人制度及び公聴会制度を十分に活用し、明確な改正理由を付して提案するものとする。

判決のように「条例改正の手続きを定めた法律も規則もない」とは言えない、この判決部分には個人的に大いに違和感を持った。原告側が提示した争点は、2項の潜脱目的で1項を「要望の提出」によって偽装したという事であった。私は、この論点を全面的に支持していた。議会内部で見た光景と完璧に合致していたからである。1項に「議会が、議会内部で意思統一を図って、要望書を町長に出し、首長提案の改正議案を上程してもらう」ことの想定はない。議員報酬引き上げ議案は首長が上程できる、報酬等審議会は首長の諮問機関である。議会に法的に付与された権能上、「報酬等審議会」の答申を参考に議員報酬について審議する、という事が望ましいと1項は述べているだけである。議案上程権限は2元代表制の下では、執行機関と議決機関の双方にある。2項を潜脱するために1項の手続を議会側から裏工作したというのが明々白々たる事実なのだ。裁判官は、1項は正当な手続きの例示であり、視察先選択を1項の手続を踏む上での目的としても、逸脱とまでは言えないと判事した、その一方で条例制定上の手続を定めた法律、規則はないと判事している。一方では手続きからの逸脱ではないとし、片方では手続き自体がないとしているので裁判所は大いに矛盾していないか、裁判官の議会基本条例の解釈本体がおかしい。概ねこの判決は被告側弁護士の言い分を援用している。裁判官は面倒になったのか、悩んで迷った挙句、やっつけ仕事的に被告側弁護士の準備書面をコピペして結審してしまったのか、裁判官とは言え人間だからそのようなことも起こるのかもしれないが、裁判官には地方議会への関心や期待が本質的に薄いのではないか。最高裁判所長官が議員に出自を持つ総理大臣によって任命されている以上、選挙や議員や議会についてもっと明晰な知見を裁判官には本来期待したいと、この判決に接し改めて思った。

2の監査却下理由に戻る。「条例の当否は権限外」の根拠に最高裁判所判例(昭和37年3月7日)を挙げている。この判例をネット検索すれば、何と「議決を経た条例の当否は監査権限外」とした大阪高裁の判決を最高裁は、「議決を経た条例の当否は権限外としても、条例解釈の適法性、不法性は監査権限外ではない」とある。

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四万十町監査委員会は、「条例の当否は監査権限外」だけ切り取り、「条例解釈の適法性、不法性は監査権限外ではない」には言及していない。実に恣意的ではないか。

住民監査請求時に、議員報酬改正条例の当否ではなく、議会基本条例23条に基づいた

条例の適法性、不法性は監査できたのである。この住民監査請求は、合併以降の初めての住民監査請求である。合併以前にも旧窪川町、大正町、十和村で住民監査請求が為された記録は残っていないという事であり、請求の却下を受けての訴訟の提起であったのだ。原告は敗訴した。裁判費用は原告負担と言い渡されている。裁判費用には、弁護士への報酬は含まれない。裁判所に支払った事務手数料の謂いである。7万円相当らしいし、原告側弁護士報酬も、原告から教えてもらったところでは町が支払った弁護士報酬と大差ない。自分の意志とは言え、そこまでの金銭負担を個人的に覚悟しての訴訟であったのだ。町政史上初めての住民監査請求でありながら、1番目の却下理由が、最高裁判例の本旨が反映されているとは言い難い。監査委員長の田辺幹夫氏に、「監査の却下は不適法」に対する受け取り方を聞けば、

田辺幹夫監査委員長:最高裁判例には条例の当否は監査権限外であるとないの二種類あるが、議員報酬改正条例は違法ではないという判決が全てである。

という木で鼻を括ったような回答が返って来た。

判決文中の「監査請求却下が不適法」部分の解釈だけを聞いている。上記は答えになっていない。却下ありきの拙速な判断だったとしか思えないのだ。田辺委員長と合議体を構成していた堀本伸一委員は、報酬改正議案の審議の場で賛成討論に立って、「これは議会で決まった事であると、町民から聞かれたら説明しなくてはならない。議員には説明能力がいる。」と演説した。議決の前に「議会で決まったこと」と余裕綽々で述べたのだ。実にグロテスクな光景であった。法や制度への抜本的な無知が背後にありそうである。が今後に及んでは、その「説明能力」とやらを田辺幹夫監査委員長と並んで、本人に発揮してもらうしかないと考えている。訴訟本体の結果の是非はともかく「監査請求却下は不適法」という判決部分に対する監査委員会の釈明を申し入れたい。町が拠出した訴訟費用(弁護士報酬)60万円も監査委員報酬、二人分年間97万4千円の出何処も町民の税金(町民の懐)である。

西原真衣