呆れた議員達の行状

地方議会の実態から日本を見る

風力発電と蠢く町政(64)

         道の駅が公の施設であるいうこと

「アグリ窪川」は高知県内では有名な、四万十町道の駅である。ここは指定管理者制度によって公設民営型で運営されており、指定管理者が株式会社アグリ窪川となっている。指定管理者制度の直截な定義は、「公の施設の管理運営の民間委託」である。そしてその民間委託の目的は、「民間ノウハウの導入を通じた運営の効率化と運用の機動化効果」である。要するに行政が直営するより民間委託した方が事業の全体的な効果効能が上がる、という考え方が背景にある。俗に言うコスパが優れているというやつだ。観光物産センターである道の駅や他の観光施設も対象となっている。道の駅は各市町村にあったため合併後は3つになった。規模が最も小さな大正道の「出会いの里」は、JA高知の幡多支部の女性部が運用者で、特に何かが問題視されたこともない実に普通のうどんや兼土産物屋であり、地元民をはじめ観光客にもよく利用されているようだ。現にうどん後進県高知にしては讃岐うどん風のうどんが美味であ。中規模の十和道の駅は、町の出資が無くアグリとは異種の問題があるので次回に譲るとして、道の駅最大規模のアグリ窪川「高速道路インタ―近くに位置するアグリ窪川は、酪農と米作りが盛んな高南台地のシンボル的建造物と地元出身人形作家の友永詔三氏による彫刻が目を引く、名物四万十ポークの豚まんを初め年に4億5千万を売上げる「食材の宝庫」四万十町の東玄関である。」と書けば、賑わい創出課作のPRパンフレットに採用される可能性もあるかもしれないが、実の所ここは色々問題含みである。問題の根源は株式の出資比率にある。町が75%、個人株主5%、残りが、森林組合、農協、観光協協会、商工会、仁井戸米米組合だ。各団体からの推薦と株主総会の承認で取締役が決まる。道の駅自体が公の施設なので、設備投資は全て公費負担である。公設民営と言えば聞こえはいいが、この環境下では、どのようなことが起きるか、実にオンパレードで第三セクター特有珍事が今まで以下の如く噴出している。

珍事1、公募でやってきた意欲的な駅長が、突然解雇された。旧窪川前田哲男町長時代の事である。「経理が分かっていない。」が表向きの理由とされたらしいが、実態は、聞くところによればリクルート社出身で社員教育のプロであった経歴を持つ駅長に従業員がついていけなかったということである。では公募で彼女を選んだ側の責任は一体誰が、どのように取ったのだろうか。はてなはてなである。

 

珍事2、高瀬満伸町長が連れて来たとされる生田則夫社長時代には、残業代未払事件が発生している。平成21年度の事である。須崎の労働基準監督署から是正勧告が入り、未払いの残業代が支払われて決着したらしいが、これは全く議会にも報告されず、「済んだ事」で処理されて幕引きとなった。この事件の起きた要因への言及は耳にしない。当時取締まり役であった現職議員武田秀義にこの一件について見解を聞いたことがある。「あれはもう解決済みである。」と事も無げに答えた。株式会社が社員に提示した労働条件の遵守上どのような問題があったのかが、表向きは分からないが、想像はある程度つく。というのも当時の社長生田氏の報酬が一挙に引き上げられたという噂を聞いて、直接本人に取材を試みた。「やっとこの報酬になった」そのやっとの内訳は、月額報酬30万円プラス退職金の掛け金分月額15万円の合計45万円というものであったが、この報酬引上げが売上げ実績を反映しているのかと別途当時の農林水産課課長熊谷敏郎氏に聞けば、「分からない。」という返事が返ったきた。この事実と社員残業代未払いを関連付ければ、言及されない部分が、如実に浮かび上がっては来ないだろうか。そしてその経営状態を締まり役会株主もチェックできていないという厳然たる事実も同時に上がっては来ないだろうか。そしてそのような株式会社によって占有される設備、新加工施設に我々の税が既に6億円も投入されてしまったのである。

 

珍事3.仁井田米米組合が、株主であるのでその代表者が取締り役の一人となっている。玄関先の物産コーナーは、仁井田米米組組加盟米穀店占有米売り場である。米の販売が自由化されても町内兼業農家の米は、この売場には米を出せない。公の施設道の駅でありながら参入障壁があるのだ。因みに定款上「株式の譲渡には株主総会」の承認がいるとなっているので、兼業農家にとっては、株式の取得による経営参加の道も実質閉ざされている。この道の駅建設に拠出された補助金の名目は、確か「農家所得の向上」であったはずだが。農産物直販コーナ―に出荷している農家は利用者組合組合員であり、利用者組合は株主ではない。

 

珍事4.残業代未払いの生田社長の交代時に、衰退の一途をたどる町内商店街の商店主が突然常勤専務理事に取り立てられた。町推薦枠で中尾博憲町長の推薦があったのである。この人物は自営商店の経営も維持しながら、アグリ窪川常勤専務理事として生田社長時の報酬を引き継ぎ、月額40万円強の報酬を受領している。経営手腕に関しては、私としては、ノーコメントである。この人物は現職町議会議員で商工会会長の武田秀義と現職県議会議員で元商工会青年部長の武石利彦の窪川小学校の同級生である。無論本人も商工会会員であり、商工会コネクションが強力に作用していると見るのが自然だ。

 

珍事5 尾崎正直知事時代の経済同友会高知県の連系協定、内閣府の大企業連携、高知県の移住定住人材確保センター、高知県計画推進課、四万十町人材育成センター、四万十町農林水産課、四万十町賑わい創出課が協働して(関係機関として協賛、協力して)、JALから営業部長を三顧の礼を持って迎えた。アグリがJALに振り込んでいるというこの営業部長の給与は町民には非公開である。何でも本人は新加工施設で増産される肉まんの販売拡大に邁進してくれるのかと思いきや、「家族が東京にいる」ので3年契約で東京に帰るのだそうである(取締役会における本人発言、出所は他の取締役)。リクルートをきっぱり辞めて公募で来た駅長には、町はあれほど冷淡だったのに、JALの出向者には大変なおもてなし振りである。関係機関同士(上級官庁と下級官庁及びその外郭団体)の一糸乱れぬ緊密な連携,協力振りには毎回舌を巻いてしまう。

 

このアグリ窪川には指定管理料は町から出ていない。が、株式会社であるからという理由で、株主名簿も、人員規定(給与体系)、取締まり役会議事録も町民には開示されない。JALとアグリの契約書(JALから出向している営業部長の待遇)も開示されない。新加工施設の建設総工費は6億円である。この6億円で、建設業者、厨房機器、電気設備、設計管理とで地元経済波及効果はないわけではないが、設備投資が公金である株式会社は、それだけに経営状況を株主だけでない町民代である議会に詳細に開示すべきではないかと思う。それなくしてその公金投資の費用対効果をどうやって議会が審査できるのだろうかと考えるからである。上記の珍事の全ては、内情の不透明さから来ている。因みに今の駅長は、中尾博憲町長の甥であり、中尾博憲町長自身が、窪川町農林水産課職員時にアグリ窪川への駅長出向経験があり、残業代だけで月に30万円取得の噂が立っていた。前々回の町長選時のことである。本人は、私に対して、これを否定しなかった。「土日は釣りに行ったので、平日に残業した。」そうである。要するに、アグリ窪川とは、駅長が稼ぎ時の週末に簡単に休みを取れる職場であり、窪川町からの出向者であった中尾博憲氏には、窪川町職員並みの残業単価が付いたのである。今はJAlからの出向者に法外な給与を支払っているに違いない。だから契約書を公開できないのである。総じて、道の駅アグリ窪川は、政治家が一枚かんだ役所の無為無策に近い施策の「出口」、今の政策用語で言えば、「アウトプット(実績値)」となっているのである。決して「アウトカム(成果指標)」ではないことに注意が必要である。「アウトカム」に関しては私は過去に愚直にもアウトカムを独自試算しようと試みたことがある。アグリ窪川のような自治体の出資比率が1/2以上の第三セクターは、毎年事業報告の提出義務が課せられている。まずそもそもの道の駅設置目的が農家所得の向上を通じた地場産品の販売拡大というならば、町内産品と町外産品の売上額表示区分があってもよさそうではないか。ところが実績報告の記載では、それがないのである。ないばかりか昨今町は、旧家地川小学校の2階部分を町直営の外国人労働者簡易宿泊所に改装し、1階部分を地域コンビニの入った集落活動センターにしようとしている。その事業全体の収支計画を立てるに当たって、近隣町村の集落活動センター事例とアグリ窪川の傘下にある松葉川温泉の宿泊者数や利用状況を参照した資料を議会向けに作成した。その折に松葉川温泉の支出部分における道の駅全体の共通経費(事務費や人件費)の按分比率が社外秘であるという認識が町から示された。社外秘であれば、按分利率を操作して松葉川温泉の赤字幅を縮小することも可能である。実際松葉川温泉は赤字である。本来筆頭株主の町は、株主総会か取締役会の場でこの按分比率の妥当性を監視する対場ではないのだろうか。そしてその監視結果を議会に報告すべきではないだろうか。透明性というのは、まずはそういう事を指してはいないだろうか。そして議会とはそのような透明性を担保させるための質疑や審査を行う機関ではないのだろうか。だが、そのような気配はない。第一、資料の提供を受けた議会側が「社外秘」を一向に問題視していない。そのようにして、町と議会の双方の監視作用が働かない環境で依然アグリ窪川は運営され続けているのである。誰も責任を取らない仕組み」という点でも、アグリ窪川は正しく役所の出先機関農林水産省御用達の施策総合アンテナショップの如きものである。道の駅が公の施設であるという事が意味していることは、ほぼそのような事であり、それを長年黙認してきたのは、やはり町民代表の議会だという視点に立ち帰れば、四万十町民が全体として今の道の駅アグリ窪川に対しては、各論反対(レストランの営業時間が短いとか従業員の接客態度が悪いとかはよく聞く)でも総論賛成ということしかならないのだ。農林水産系の諸々の施策や補助事業について考察する際には、この視点が欠かせないのではないか。それにしても農家所得の向上は一体どうなったのか。

 

西原真衣